一級建築士事務所   林建築設計工房

TOP PROFILE WORKS Q&A LINK BLOGS REFORM MAIL

 

森山の家

 なんと! 第28回住まいのリフォームコンクール 国土交通大臣賞 私もビックリです。

結構明るいでしょ・・リビング。

夜はこんな感じで・・・

後ろ姿もいかしてる?

左:コンパクトなキッチンで充実。    右:内玄関からも入れます。

沢山勉強できそうです!

和室でお茶します〜?

左:素敵な絵を飾っておめかし。          右:なんだか空気が澄んだ玄関です。


施主の愛読書、読みますか?それともお手製のパンにします?

町家の姿で再出発。

 

 

 

物件選び

 この物件は昭和40年代に建てられたものだ。物件選びの決め手は場所と価格が施主の希望に見合うものであったことは言うまでもないが、こちらでこの物件ならうまくいきそうだとお奨めしたことも後押ししたようだ。特別の場合を除き、中古物件取得費と改修工事費の総計が新築費用以下に抑えられる物件をお奨めしている。金沢は城下町であった歴史的経緯から古く魅力的な中古物件に出会えることもあり、特別の場合とはそのことである。この度の物件は、歴史的魅力は感じられなかったが、改修に相応しい適正な規模で、シンプルな形状と構造的にもバランスのよいもので、致命的な傷みがほとんどないものだった。この時点では改修内容は決まっていないが、全体をバランスよく改修し、施主に相応しい住まいに変えることを前提とした叩き台となるプランを後日提案し、安心して購入出来るよう改修内容の展望を提示している。

 

古き街並みに合わせて

 敷地は古い町家が立ち並ぶ界隈にある。両隣の外壁がぴったりと隣接し、見える外壁のほとんどは前面道路と裏手の庭側である。街並みに合わせ、道路側外観は下見板と白漆喰をイメージしたモルタルに白い弾性リシンの外壁と黒瓦で構成している。外壁は外張りと充填断熱を部位によって使い分け、通気工法でほぼ施工している。モルタル部分は通気ラス、下見板は伝統的な通気工法である。屋根面も外張り断熱とし、瓦下で通気層を設け、棟換気を採用している。瓦は耐久性が高いことが利点であるが、夏場日射と冬場の積雪の蓄熱材となり、その輻射熱が室内環境にマイナスだ。それ故、通気と外張り断熱の組み合わせは非常に効果を感じている。外壁、屋根ともにアルミ蒸着の透湿防水シート施工し、準遮熱を行っている。床は根太間に断熱材を施工した。施主曰く、想像していた以上に涼しくて暖かいと好評であった。構造補強として、構造用合板を外部もしくは内部に適切に施工し、金物の追加も行った。

 1階は玄関とトイレ、階段を除き、レイアウトを変更し、玄関から玄関ホール、リビングダイニング、キッチン、内玄関、玄関と周回できるプランとし、淀みないシークエンスな空間を形成している。視覚的にも風通しにもおいても周回することが心地よさに貢献し、小さいながらも空間を使いきることが可能となった。また、この周回部分に飾り棚などの設えがあり、施主の楽しみの一つにもなっている。和風の外観から、徐々に変化し、リビングダイニングに到っては和風感を程ほどにトーンダウンした白く明るい居間として、現代の暮らしに相応しい空間を演出している。

 2階は既存の間取りのまま、南側和室を寝室に、中の間をウォークインクローゼットに、北側和室を茶室として使える和室に改修した。

 改修費用は抑え、断熱や耐震、外観、インテリアにバランスよく配分した。使える間取りや部位は出来るだけそのまま使用し、必要に応じて、洗いや塗装などで新旧の差違が目立たぬよう配慮し、古さも趣として演出している。床と天井の一部は杉板に自然保護塗装、1階壁のほとんどは漆喰調の左官仕上げとした。家具は合板にて作成したものがほとんどで、色調を合わせ、安価ながら違和感のない造作としている。どの材料も日本各地で手に入る標準的なものである。時間経過で感じる古さを趣に変えられる材料を出来るだけ選定している。古さがもし価値と為り得るなら、それは大変なエコではないか。愛着を持って、大切にして頂ければ更に寿命が延びる。これらが長寿命化リフォームの根幹にある部分であり、とても重要なことではなかろうか。この住まいには施主がものを大切にする思いが宿っているのである。

 

賞を受けて

この物件は、第28回住まいのリフォームコンクールにて国土交通大臣賞を頂いた。大変光栄である。賞に輝く建物はアトラクティブで、正しく強く輝ける魅力を持つものが少なくない。最新の技術やダイナミックな空間など人を引きつけるもの、動的な魅力とでも表現すべきものを持ち合わせてるということだが、この住まいは違うのである。小さく、オーソドックスで、ささやかな積み重ねでできた静かなる空間であり、高性能と言うよりは、むしろ中性能と表現した方が相応しい。昔よくいた賑やかでおもしろいクラスの人気者というよりは、静かでしっかり者のいい奴といったところだ。静的なアトラクティブとでも表現しようか。強く人を引きつける魅力はもちろん良いことで、元気の源でもあるが、多様な価値を認められることも大切であり、暮らしに相応しい機能や空間がここに存在していると評価されたとすれば、それはこの上ないことである。日本各地にこのような中古住宅は数多く存在するであろう。大胆なリフォームを伴わなくとも、特殊な材料を使わなくとも、もし快適で良質な住まいが出来るとしたら、多くの方々に幸せをお分けすることができるのである。この受賞は、日々、直向きにリフォームに取り組む方々へのエールでもあると思う。東日本大震災は人々に多くの大切な事を気付かせた。この評価が社会の価値観の変化を現しているのではないかと感じるのは私だけなのであろうか。

(住まいと電化2012年5月号)寄稿文より抜粋修正

 

 

 

 

改修前へ
 

 

 

 

Copyright (C) 2007 Masato Hayashi All rights reserved.